Love the Moment

日原いずみ

入院中に感動したできごと ①


【3月28日のできごと】 *忘れたくなくて携帯で打っておいた。

個室を希望したけど入れず、4人部屋に入った初日の夜、斜向かいに術後らしい若い子が移動して来た。

以前入院した時の大部屋は、基本はカーテンを開けて過ごし、プライベートにこもりたい時にカーテンを閉じていたけれど、コロナやスマホの普及もあり、みんなカーテンを閉めて過ごすのが当たり前になっていた。

そんなわけで私より後に来たその子の姿は見たことがなく、ただ、どうやら勉強をよくしている様子が看護師さんとの会話でわかった。

女子高生なのかなあ。
春休みの年度末にそんなに勉強するのは進学校の子で宿題やテストが多いのかなあ。

 

その翌日、私自身が手術を受け、術後、朦朧とした状態で、その4人部屋に戻ってきた。

正直、術後すぐは別室で休めると思っていたので面食らったが、自分を担当してくれた、まさに白衣の天使に見えた看護師さんが、私の世話を一通り終えて、その斜向かいの女子高生くらいの子に話しかけていった。

私は自分が必死な状態だったのに、二人の会話がよく聞こえてきた。

「高校、〇〇? ジャージがそうかなーと。私も〇〇だったの。
勉強すごいね、大学受験?」

「あ、今年卒業して、名古屋の大学には受かったけど行きたくなくて、浪人するんです」

みたいな話で、その会話によると、東京に行きたい大学があり、そこを目指して再挑戦する様子。
そのためにもう、勉強を始めている。

その高校の女子で浪人する子は珍しい。
私はその子の意志の強さにひそかに感動していた。

 

翌々日の、その子の退院の日。

廊下で私の側からはお顔を確認したものの、話してないし、かなり迷ったけれど、一期一会と思い、部屋の中にその子と二人というタイミングが訪れた時に、ネームプレートを確認し、カーテンのそばから名字を呼んだ。

「同じ部屋の☆☆ですけど、ちょっとだけいいかな?」

中には髪の長いかわいらしくて意志の強そうな子。

「この間、お話聞いちゃって、勉強がんばってるの、えらいなあと。
実は私は早稲田に行ったんだけど、どうしても行きたい学校に入ると、30年後の今も楽しいから。私も東京にも行きたかったから気持ちわかるよ。その頃の出会いが、その後もずっと続くから。だから、がんばって」

と。

聞けばやはり同じ高校の友達で浪人する子はおらず、予備校には通わず、ネットで勉強を続けていく様子。

私なりのアドバイスを伝え、みんな楽になりたいから、推薦とかで入れる私立に決めちゃう様子もわかるし、でも、がんばることを選択した彼女を励ましたかった。

「応援してるから。でも、とにかく身体には気をつけてね」

と言ってカーテンを閉じた。

お節介だったかなぁという反省はもちろんしつつ、その後、その子が退院の荷物をまとめた最後に、わざわざ私のところに挨拶に来てくれた。
そっとカーテンを開けて、
「さっきはありがとうございました」
と。

手術の影響か、鼻が詰まったかのような声。

私は彼女が来てくれたことに感動し、

「意志のある子が今は少ないから・・
もし、うまくいかなくても、絶対にいい人生になるから・・がんばってね。
でも何より大切なのは身体だからね。
いい人生を送ってね!!」

と、暑苦しく。

それを聞いてくれた彼女の目が真剣で、彼女が去った後、私はカーテンの中で泣いた。


18歳の春
48歳の春


30年後の彼女が幸せであってほしい。


私は過去の入院生活(東京女子医科大学病院、島根医科大学病院、豊橋市民病院)で出会った人たちのことが今でも忘れられない。

若い時の、入院という非日常での出会いが、その後に残り続けることもある。

彼女のその後に残りたいわけじゃないけど、彼女ががんばると決めたこの一年のモチベーションの片隅に置いてもらえたらと思った。

入院中に声をかけてきた変なオバサンがいたけど、あの人の言うこと、本当だったなあと。


「行きたい大学に入ると30年後も楽しいよ」よりも、
「意志を持ってがんばると、よい人生になるよ」の方が伝わってくれたらいいな。
かと言って、決して無理はせず、健康第一に・・・

もう会うこともないだろうけど、「絶対にいい人生になるから」とか「いい人生を!!」の部分を、心に持って生きていってくれたらいいな💐