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日原いずみ

東京事変『緑酒』から派生して感じるいろいろ



東京事変 - 緑酒 - YouTube


🌟今回はたくさんの動画や記事を添付するので、私の地の文章をざーっと読んでいただいてから、興味を持ってもらえるリンク先をご覧いただければと思います。
(もちろん、じっくり読める方はその都度開いてください)

東京事変の新しいアルバムリリースに合わせてのテレビ出演やらYouTube発信などをそこそこキャッチして、やはり、東京事変って、椎名林檎ってスゴイな!!という思いを深めていた。

その中の一曲、『緑酒』

youtu.be

 

美しい日本の風景や和服やお料理とともに、日本のこと、民衆のことを鼓舞するような力強い歌詞や繊細かつ迫力ある歌声や演奏にグッと来た。
テレビ東京系『WBSワールドビジネスサテライト』エンディングテーマ曲 とのことで、なるほど社会性を感じる内容。
歌詞の中の、「日本の衆」「列国」「自由」「貴様」「服従層」「支配層」「尊厳」などのワードだけでも、ネットのバッシングが気になってしまったが、私が勝手に恐れたほどのことにはなってなさそうだった。

(それよりも、コロナ禍で鬱屈とした思いを抱えている方々へのメッセージソング的に響き、涙し、共感するようなコメントが多い)

というのも、椎名林檎は、2014年にリリースした『NIPPON』(ワールドカップの年のNHKサッカーテーマソングとしての依頼)の時に、歌詞が右翼的だなどと、かなりバッシングされた。私は当時、その批判が不思議で(ネトウヨという言葉が聞かれ出した頃)、当の椎名林檎トーク番組に出た時に、「読解力のない方々が言うこと」と切り捨てていた様子が痛快だった。

その『NIPPON』よりも挑発的に私には感じられた歌詞の『緑酒』が、『NIPPON』の時ほど物議を醸していない様子に、椎名林檎は叩かれることを引き寄せない次元に上昇したのだと感じた。この7年の間にスケールアップした椎名林檎(今回の発売の名義は東京事変だけど)の歩みに、勝手に感慨深いものを感じたので、こうして書いてまとめています。*書きたいことが多過ぎてまとまりはないです。


音楽やアートとスポーツや政治の融合というのはよくあって、わかりやすいのが上記のような大会に合わせたテーマソング、オリンピックの開会式の演出などもスポーツ、音楽(芸術、アーティスト)、政治家が絡んだりする。

リオ五輪の頃は、4年後の東京オリンピックの演出が楽しみだった。
私は東京五輪の招致には強く反対だった。復興五輪という聞こえのいい言葉や、原発事故や放射能の問題を「アンダーコントロール」という明らかな嘘(東京の7、8月は過ごしやすい気候だとかも含めて)で塗り固め、国内の心配や課題を追いやって華やかさに逃げるようで賛成できなかった。しかし、東京でやると決まったのならば、成功させてほしいと思った。

リオ五輪や、パラリンピックの閉会式での東京五輪(パラ)への引き継ぎ式の演出に椎名林檎も参加していて、素晴らしいものだったので(パラの方が私には印象的だった)、東京五輪に向けても演出チームに椎名林檎が加わっていることが楽しみだった。

ところが、延期となった後、そのチームは解散。
野村萬斎さん等、いいメンバーだったのにもったいないと思った。

明るみにはなってないけれど、ひどいなあと感じる経緯が多少わかる記事。

www.fashionsnap.com



今年になってから、その演出チームの代表であった(解散後も残っていた)佐々木氏も不適切発言から辞職・・・

コロナの影響や政治家たちのマイナスイメージも積み重なり、華々しいはずの東京オリンピックの印象がどんどん低下していく時に、離れていった聖火ランナー予定のタレントも続々といたし、椎名林檎も、どこかで見切りをつけていた気がする。

 
さかのぼると、冬季の長野オリンピックの時の開会式の浅利慶太さんの演出は私は不満だった。その時の私は20代で、フランスから帰国した現代美術作家の仕事を手伝い、展覧会の企画も立てていたので、演出にとても興味があった。ところが(私にとっては「ところが」)、日本から世界に発信する機会に、例えば森山良子が歌ったことも(森山良子自体の評価ではなく)なぜ?だった。御柱祭の男衆や巫女のイメージの伊藤みどりも含めて、なんだか地味~な印象に感じ、切実に、例えば安室ちゃんを出してほしいと思った。もっと、若さや女性をアピールしたらいいのに、と、もちろん常々は年齢じゃない性別じゃないとは思うけれど、伝統的だとしても、古臭い日本という印象に思えて残念だった。

なので、東京オリンピックの演出は、例えばチームラボに任せて欲しいとリオの頃は思ったし、そもそも、そういう演出に関わる人材の選出や金の回り方も不透明な中で、椎名林檎の選出はうれしかった。同時に、椎名林檎が政府寄りになっていくとしたら、それはそれでつまらないな、とも思っていた。

ここでもう一つ例を出すと、東京オリンピックの記録映画は、河瀨直美監督に任されている。カンヌ国際映画祭の受賞監督である河瀨さんが張り切っている様子は元々彼女のfacebookを追っているので見ていた。依頼されたからには疑問を振り切ってでも任務を全うしたい気持ちはわかるけれど、違和感もある。

同じくパルムドールを獲得している是枝監督とは対照的だなあと感じていた。

是枝監督がカンヌで受賞した頃印象的だったことを、当時の新聞記事からまとめると・・・

<是枝監督は、林文部科学相が対面して祝意を伝えたい意向を国会で示したことに対し、「公権力とは距離を保つ」として祝意を辞退する考えを自身のサイトで明らかにした。

 是枝監督は「『祝意』に関して」とする文章をサイトに掲載。受賞を顕彰したいとする団体や自治体からの申し出を全て断っていると明記し、「映画がかつて、『国益』や『国策』と一体化し、大きな不幸を招いた過去の反省に立つならば、大げさなようですがこのような『平時』においても公権力(それが保守でもリベラルでも)とは潔く距離を保つというのが正しい振る舞いなのではないかと考えています」とした。>

 
全くその通りだと思う。

国の仕事を請け負うと(オリンピック=国とも違うけれど)、国の意向に沿った描き方になるけど、それは一表現者としては抗うべきことに感じる(国の意向に抗うことへの賛成という意味ではなく、抗うことも含めての自由を持つべき)。

公権力との距離、というものを、どうとらえて行うか、椎名林檎はいったんは一緒に行う側になったけれど、そこから外れ、河瀨監督は現在一緒に行っている真っ最中。

そのような数年や経緯があったからこそ、『NIPPON』から『緑酒』への移行に、私は感慨深いものや時代の変化を感じてしまうのだ。


椎名林檎の作詞は、本人が曲が先と言っていて、曲のリズムに合わせて古文のような言葉にもなる場合もあるそうで、私たちリスナーが勝手に想像してしまうような、「してやったり感」は、実のところ本人にはあまりないと思う。

なので、『NIPPON』でのバッシングや『緑酒』の共感も、本人の想定を超えたところでの場外乱闘みたいなものだと思うけど、一つの基準としての「国家」の漠然としたラインより『NIPPON』は下にあったけど、『緑酒』は上にあるように感じる。

それは、国の側に立つか、民の側に立つか(本来国と民は分かれておらず、対等だと思っているけど)、みたいな視点の違い(椎名林檎本人のプライベートな思想ではなくて、その曲をつくる時のアーティスト椎名林檎による演技や演出込みの思想)。

『緑酒』はそのくらい、民衆の側の歌だと思う。
「自由」をとても尊重している。


歌詞の一部

<自由よ いいように 搾取されないで 安く売らないで

終始 貴様は 誇り高くあって頼むよ>


緊急事態宣言で、飲食店の酒の提供を禁止した国のやり方は、禁酒法を連想させ、だからこそ、この歌に出てくる「自由」や「乾杯」は目指すべき歓喜にすら聴こえてくる。

 

<乾杯日本の衆 いつか本当の味を

知って酔いたいから 樹立しよう

簡素な真人間に 救いある新型社会

次世代へ ただ真っ当に生きろと 言い放てる時 

遂に祝う その一口ぞ 青々と

自由たる香 さぞ染み入る事だろう

伝う汗と涙が 報われて欲しい 皆の衆>

ちょうど長男が、お酒が許される20歳になる学年で、今はオンライン授業や、仲間とのバカ騒ぎも許されず、ガラスケースの中に閉じ込められているような青春に感じるので、まさに「本当の味」を、酒に関しても大学や仲間に関しても、しっかりと味わえる、祝える、染み入る、報われる時が来てほしい。

*書いていて思い出したけど、林檎ちゃんの息子もうちの長男と同じ年なので、似たような思いや境遇の中に親子であるのかもしれない(歌詞への反映という意味ではなく)。

 

そのようなさまざまな思いを想起させる『緑酒』で、圧倒的な歌を、慎ましく力強く歌い上げる椎名林檎に、品格を感じます。

 

以下は、記事のご紹介。

🌟椎名林檎本人へのFIGAROのインタビュー記事(この記事を読む前に上記を書いてありました)。うなずく部分多々。

madamefigaro.jp



🌟『緑酒』の分析はたくさん出ているけど、その中でまあまあ自分に近かったもの。
(林檎ちゃんに限らず作者本人は音に合わせて歌詞を乗せている場合が多く、そこまで深い狙いは意外にもなかったりするので、分析は本来は好きではないです)

 

somedaytsuka.com

 


🌟『緑酒』や東京事変とは関係ないけど、宇野常寛さんが書いた東京オリンピックについて。私がここまで書いてきた内容にも重なると感じるのでご紹介。

 

note.com


🌟『緑酒』のミュージックビデオの監督は、椎名林檎の二人目の夫の児玉裕一

児玉さんは私が大好きな藤井風の『帰ろう』でも素晴らしい映像を仕上げているけど、椎名林檎の作品で言うのなら『長く短い祭』も大好きで、この対談で言いたいこと、すごくわかるなあ~~って思っていた。
公私のパートナーと、自分の世界観や美意識を妥協せずにつくり上げる醍醐味は、体験としてちょっとはわかるので、素敵です。

2019年の記事。

 

www.billboard-japan.com

 

私は、東京事変の『閃光少女』は人生最高ソングくらいに思っています。

『緑酒』のように社会性を感じる作品としては『ありあまる富』も素晴らしい。

革命と官能を同時に感じる椎名林檎の世界観、狂おしいのではなく、狂おしさを演じている彼女の余裕や遊び心をリスペクトします。

そうそう、『緑酒』の英語タイトルは「Awakening」だそうで、意味は、目覚め、覚醒、気づくこと とあります。そこにもメッセージを感じますね。