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日原いずみ

佐々木淳医師の投稿のシェア


12月30日投稿分

facebookの投稿から、いろいろ学ばせてもらうことが多い1年でした。
中でも医師として現場(命の最前線)に関わり、そこから見える感じる社会や政治、経済についても語ってくださる方々の文章には胸が熱くなることも多々。
年の瀬のこの内容、素晴らしいです。
さまざまな分野においての第一人者であり、さらに文章力、表現力、発信力もセットになってる方々はスゴイなあと思う。
私の周囲は中小企業の社長さんたちも多いです。介護の仕事をがんばってる方々や、家族の介護のさなかにいる方も(それは誰にでも訪れるし)。
厳しい時代だけど、応援しています。
 

🌟佐々木淳さんの12月30日の投稿(*在宅医療の第一人者である内科医 私がfacebookでフォローさせてもらっている同年代のお医者さん)
 
老舗割烹料理店のオーナーシェフとして活躍していた僕の患者さんがいる。外来通院患者だったころ、僕も彼の店で何度も食事をした。本当においしい魚を出す店だった。
しかし、彼が80代になってから、不動産関係の問題が発生し、店を手放すことになってしまった。それから彼は急速に生きる意欲を失い、認知機能が低下し、要介護状態となって、訪問診療を受けることになった。
診療にお伺いすると、彼は四六時中、魚の目利きでは誰にもまけない、いつか必ず店を取り戻す、先生、また食べに来てください、そう言っていた。そして、美しい字で、お品書きを書いたりしていた。
ケアマネに勧められて通い始めたデイで、ある時、落ち込んで帰ってきた。みんなで焼いていたたこ焼き。危ないからといって、調理に関わらせてもらえなかったというのだ。彼が伝説の板前だということをスタッフは知らなかったのだろうか。
それから、彼は料理のことは口にしなくなった。そして、彼は自宅での生活継続も困難となり、転居していった。
もし、彼にもう一度、活躍の場を提供できていたら。
もしかしたら彼の人生は違っていたかもしれない。
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一方、葛飾で一人暮らしを継続する80代の女性。
彼女は、日常生活を送る上では支援が必要な状態だ。自分の年齢が思い出せないこともある。しかし、彼女でなければできない手作業をコツコツと続けている。
特殊な産業用のブラシ。ニーズが少なすぎて大量生産はできない。彼女が一人で作れる程度の量で満たされてしまう。そして、それを作れるのは現時点では彼女しかいない。
月に一度、材料が送られてきて、完成品が回収されていく。
その収入は微々たるものだ。
しかし、彼女は誇りをもって仕事を続けている。
必要とされている限りは、この仕事を続けたいと言っているし、訪問診療が始まってから間もなく15年、彼女の身体機能・認知機能はそれができるレベルに保たれている。
彼女の作るブラシに、依頼者からクレームがついたことは一度もない。彼女はこの年末も休まず依頼者の期待に応え、完璧な製品を確実に納品し続けている。
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仕事って何だろう。
その重要度は、決して、給与だけで測れるものではないと思う。
毎年話題になる1時間あたりの労働生産性
先進国の中でいつも最下位レベルの日本。
この手のニュースが出るたびに、日本の経済はやっぱりダメだとか、企業の大規模化・合理化を進めるべきだ、みたいな議論が持ち上がる。
だけど、それは日本にとっての最適解なのだろうか。
そもそも、生産性が低いことってダメなことなんだろうか。
日本では、全就業者の70%が「生産性の低い」中小企業で働いている。高い生産性を発揮する大企業は企業数ではわずか0.3%。
日本の企業の99.7%を占める中小企業の生産性を向上すれば、日本経済の生産性が上がると、ゴールドマンサックス出身の経済学者が主張している。中小企業を再編して企業規模を拡大せよ、という乱暴な議論が政府の成長戦略会議から発信されたのも記憶に新しい。
しかし、大企業と中小企業では、そもそも対象となるマーケットのサイズが違う。ごく一部のグローカル企業やスタートアップ企業を除けば、成長の可能性も限られている。
なぜならば、中小企業の多くが、地域に最適化、そこで働く社員のスキルに最適化した事業を行っているからだ。
結果としてマーケットは成長しにくく、社員一人あたりの事業収入も利益も劇的に上がらない。そもそも利益の最大化を目的として仕事をしている企業ばかりでもない。
しかし、これは悪いことなのだろうか。
生産性を追求しない中小企業の多くは、高齢者も多く働いている。歳を取って、体力や集中力が低下しても、作業が多少ゆっくりでも、マイペースに仕事を続けられる場所がある。
これって人生100年時代を生きる私たちの未来にとっては、とても重要なことなんじゃないだろうか。
中小企業を再編し、大規模化・業務合理化することで、生産性の高めることはできるかもしれない。しかし、それは、高齢者をはじめとする「生産性の低い人たち」を組織から追い出すというプロセスそのものだ。
居場所や役割、収入を失ったその人たちはいきがいを失い、老化を早め、社会はその人たちを介護保険や福祉サービス、生活保護などで支えることになるのだろう。
上がった生産性が、社会保障の充実に回ることに異論を唱えるつもりはないが、こんな社会は幸せなんだろうか。
中小企業の役割は、より高い利益を生み出すことだけではないと僕は思う。もちろん利益を出し、納税することは営利法人の大切な社会的使命だ。しかし、地域にとって、そしていずれ高齢者になる私たちにとって、より重要なのは就労機会・社会参加の場の創出ではないだろうか。
日本の高齢者の就労率は、実は世界トップレベルだ。
5人に1人の高齢者が働いている。
日本では、80歳以上になっても、男性の6割、女性の4割が就労が可能な体力を持っているとされ、その割合は年々高くなっている。
筋力や瞬発力、集中力などは加齢に伴って低下していく。しかし経験の開放性や協調性、安定性など、加齢に伴って獲得される強みもある。
そして高齢者の8割は何らかの形で就労を継続したいと考えており、その多くは報酬の有無やその金額にこだわっていない。
日本の高齢者は、間違いなく地域の社会資源だ。
この「生産性の低い集団」が、いかに活躍できる地域をつくるか、これこそが地方自治体の課題であり、これからの中小企業の最も重要な使命なのではないだろうか。
私たちが健康により長く生きていくために最も重要なのは、社会とのつながりであるという研究報告は数多い。その寿命への影響力は、喫煙や過度の飲酒、運動不足や肥満、生活習慣病治療やワクチン接種などよりも大きい。
そして、いきがいがあるだけで、高齢者は死亡率が下がり、要介護のリスクが下がり、認知症になっても進行がゆっくりになることもわかっている。
就労は間違いなく、役割とつながり、そしていきがいを提供する重要な居場所の1つだ。
高齢者が役割を持ち続けられることで、医療や介護などのフォーマルサービスへの依存度を減らし、その担い手を増やし、国民の人生に対する満足度を高めることができるのではないだろうか。
超高齢化は世界共通の課題だ。
そろそろ単位時間当たりの利益、みたいな短絡的な指標を捨てて、社会全体への付加価値を考慮した新しい「生産性」の新しい定義を、超高齢先進国・日本から提案してみてはどうだろうか。
日本の「弱み」を、ぜひ「強み」に転換してほしい。
そして、日本の地域を真の意味で支え続けている中小企業をきちんと評価し、高齢者や病気や障害とともに生きる人たちに社会参加の機会を広げてほしい。
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※高齢者の中には、年齢に関係なく高度な生産性を発揮する人も当然いると思いますし、テクノロジーのアシストでそれがより長く可能になる、ということは、それはそれでもちろん重要だと思います。
※中小企業の中には、生産性というよりはマネジメントに問題があり、いわゆるブラック企業のような運営になっているところも少なくありません。このような企業の運営支援を合理的に行う、ということはあって然るべきだと思います。

添付記事①
労働生産性 日本は21位 OECD加盟国37か国の中で(NHK