Love the Moment

日原いずみ

ピアニスト 野畑さおりさんのこと

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☆心をこめて、大切に書きたい内容だったので、落ち着いたタイミングの今、書いています。

 

1月20日のこと。

私が通っているmixs.で、実践会が行われました。

松本先生のお話や実技指導の前に、新春ということもあって、mixs.の生徒でもあるピアニストの野畑さおりさんの演奏がありました。

 

演奏と言っても、ふだんのスタジオなのでピアノはなく、松本先生の小学校5年生の息子さんの電子ピアノを持ち込んで・・・

(赤い小型のピアノは、野畑さんが娘さんに贈ったおもちゃのピアノで、それも使っての演奏)

 

ふだん、一流のピアノを弾いている一流のピアニストの野畑さんが、失礼ながらも悪条件の中、どんな風に弾きこなすか、という関心も持って、みなさんが野畑さんに注目しました。

 

結果、おそらく何人もの方が「弘法筆を選ばず」という言葉を思い浮かべたのではないか、というような、素晴らしい演奏でした。

 

野畑さんの選曲や編曲による、新年らしい、清らかでやさしい、美しい響き。

後日、ご本人に教えていただいたプログラムは・・・

 


野畑さおり編曲 : 日本の四季

湯山 昭作曲 : バウムクーヘン、鬼あられ

野畑さおり編曲 : 映画「ロミオとジュリエット」のテーマ

ショパン作曲:エチュードOp.25-1より「エオリアンハープ」

アンコール
ショパン作曲 : 幻想即興曲

  

 

野畑さんの演奏をホールのピアノでお聴きしたこともあるけれど、クラシックに詳しくない私でも「いい演奏だな」というのがわかります。


何度かお話させていただいて、とにかく人柄がよく、いつも笑顔で、野畑さんと小学校時代のピアノ教室が同じだったという友達からも、野畑さんと何度も演奏会をともに行っているヴァイオリニストの友達からも、野畑さんの演奏だけではなく、人柄の素晴らしさや性格を讃える声を複数から聞いてきました。


地域の宝のようなピアニストです。


そんな野畑さんが、演奏後の、松本先生との対談の中で行ったある告白にたいへん驚きました。

 

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当日のセミナー終了後に、

「そのことには触れずに今日の演奏のことをブログに書かせていただきますね」

と野畑さん本人に伝えましたが、その夜に野畑さんの告白についてブログに書いている方がいて、私としては、野畑さんの口から広まった方がいいと考えていたけれど、SNS時代、野畑さんに許可をもらわずに今後触れる人が増えていくのなら、むしろ私なりに(私にできることとして)心を込めて書かせていただいた方がいいのかなあと思い、野畑さんにどちらがいいかメッセージでお尋ねしました。

 

すると、

 

<とても嬉しいメッセージをありがとうございました🤗
ここまで気を遣って頂け、感謝の気持ちでいっぱいです❤️

(中略)

私の尊敬する素敵で素晴らしいイズミさんに記事を書いて頂けましたら大変幸せです❤️どうぞよろしくお願い致します。>

 

とのご返事。

文面のこの一部だけでも野畑さんの心根の美しさがわかるし、そのメッセージを読んでまた私は涙がこみ上げました。

 

 

野畑さんがお話くださったことによると、野畑さんは、10年ほど前から、手に「ヘバーデン結節」という病気を抱えているそうです。

 

始まりは突き指のような違和感から始まったそうですが、その後激痛が走り、豊橋市内の整形外科で「ヘバーデン結節」と診断されても、その診断を認めたくなくて東京のピアニスト専門の病院を訪ね、そこでもやはり同じ診断で、受け入れざるを得なかったそう。

 

激痛というのは、野畑さんが対談の場で語った言葉を借りると、「真っ黒になった虫歯をハンマーで叩きつけるような痛み」だそう。

 

ピアノの演奏、鍵盤に指先で力を入れるということは、痛みを伴う作業のようで、痛みに耐えながら、痛みと引き換えの演奏である、ということを自らの言葉で(野畑さんはそのようなストレートさではなく)語ってくれました。

 

信じられない、というのが最初の印象でした。

 

やわらかでたおやかで、野畑さんそのもののような陽光に満ちたような音色。

そのかげに、同時に、痛みが介在するなんて・・・

 

何も知らないまま私の座っていた位置から見ていた野畑さんは、全身を使って演奏をしていました。

ピアニストの生の演奏を、その角度から見たことがなかったので、指先に力を込めるために上半身だけではなく腰を使ったり、ひとつの曲の最後に鍵盤から手を離す所作が、ギリギリまで、祈りにも似たようなエネルギーが込められているようで、本当のプロとはこういうことなんだなあと感心していました。

 

その瞬間瞬間にも痛みがあったとは・・・

 

私も今、大好きな文章をパソコンでタイピングしながら制作しています。

自分の好きなこと、生業としていること、それに毎回痛みが伴うのは、本当に辛いことだと思います。

 

苦痛を和らげたり回避するためには指の手術が必要だそうで、その選択はピアノを諦めることになるのだそうです。

 

そのため、野畑さんは、痛みに耐えて、痛みと共存してピアノを弾くという選択をなさった・・・

 

私は野畑さんのお気持ちやこれまでの痛みや苦悩を想像して涙が出ました。

 

対談後に花束をお渡しする役目を預かっていて、始まる前は何か一言お伝えしようと思ったけれど、何も言えませんでした。

 

私にも長年の持病や難病があり、そのおかげで学んだことは多々。

痛みを知る感性だからこその私自身のパフォーマンス(書くことや講演することなど)もある。

野畑さんの類まれとも言えるような人柄の良さや演奏の素晴らしさ、それらは病と無関係ではなく、病が野畑さんを高めている側面もあるでしょう。

 

でも、でも、苦痛はない方がいいわけで・・・

 

私なりに、自分が持つ健康情報をすべてお伝えしたいと思い、来月になったらお茶しましょう、とお伝えしました。

 

実は家も同じ校区内で、野畑さんの娘さんは長男次男と同じ小学校で、長男の1学年上でした。

なので娘さんの素晴らしさや美しさも知っています。

 

野畑さんが今回初めての告白をmixs.で行ったこと(松本先生はずっとご存じで、今回野畑さんの側から「みなさまに話す」という提案がなされたそう。先生も目を赤くしていました)。

 

これまでは、様々なご自身の葛藤や思い、さらに、指の持病を知らせてしまうことによる共演者や関係者、お客様への思いや配慮から伏せてきたそうです。

 

mixs.には様々な病気や運命を抱えた方々が救いを求めるようにしてやってくるので、その場で初の表明や告白を行った野畑さんのお気持ちも近いところでわかります。

 

ありのままの自分、いわば負の側面について表明するのは覚悟が要るし、同時に、私は野畑さんのステージアップなのだと思いました。

 

物理的な舞台という意味のステージではなく、ご自身の段階や次元という意味の精神的なステージ。

やがて、その二つのステージがともに上昇し、さらなる高みに至る風景も見えるような気がしました。

 

技術的なわかりやすいものではなく、野畑さおりさんにしかできない魂の演奏です。

 

 

私はかつて、人に言えない子宮の病気を書くことで、自分自身や同じ病を抱える女性を励ましたいと思いました。

 

自分を受け入れ肯定して生きることは強いことだと思うし、表現者の場合、何かを伏せての表現よりも、明らかにしての表現は一層の価値や輝きを持つと思う。

 

私は、ピアニスト野畑さおりさんのことを、今後一層応援していきたいと思います。

すべて含めて、唯一無二の存在感。

 

野畑さんの演奏や思いが、人生讃歌となって、より多くの方々に響き渡りますように。

 

 

  

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